最近、デリバティブ業界、数理ファイナンス業界で話題になっている論文、 または、個人的に興味を持った論文をリンクします。

Numerical approximation of the implied volatility under arithmetic Brownian motion, Applied Mathematical Finance, Vol 16, No3, 2009

内容紹介

Bachelier式のimplied volを解析解のように高速にかつ正確に求める手法を記述した最初のペーパーだ。このペーパーは2007年に書かれており、当時はBachelier式を使う金融機関はまだなかった(スプレッドオプションでは使っていたかもしれない。実は、外資系の一部では円スワップションのみBachelierモデルをすでに使っていた )ので、当時はとても斬新的なペーパーであったと思う。今となっては、Bachelier式は金利オプションで幅広く使われている。また、このペーパーは、Bachelier式のImplied Volは、Black式からのImp Volと違い、1次元の問題に帰着すると指摘したのもこのペーパーが最初であると思れる。

Bachelier式からのimplied volの計算に興味のある人は、このペーパーをまず読み、次に、Fabin Le Floc'hのFast and Accurate Analytic Basis Point Volatilityを読み、最後に、Peter JaekelのImplied normal Volatilityを読むことを薦めたい。

最終的には、Rational Chebyshev approximationを使ってある関数を近似することに帰着する(もちろんこれは事前の準備としてやっておくで、実際のコーディングではペーパーの数値結果を使う)。これも、Press et alのNumerical Recipesをみて自分でコードを書いてみると理解が速い(難易度は高いが、いつか報われる時が必ずくる!)。

こんなことをしているうちに、他のいろいろな問題でこのRational Chebyshev approximationの手法が使えることが分かってくる。

Pricing Asian and basket options via Taylor expansion,The Journal of Computational Finance 5(3), 2002

内容紹介

Lognormalに従うアセットのバスケットオプションや離散的なアジアオプションの近似的な解析解の導出といったとてもクラシックな問題に最良の近似解を与えるペーパーです。

現代的には、個々のアセットのVolスマイルを考慮したバスケットオプションのプライシングが問題になるところですが、1990年代や2000年初頭では、Volスマイルが顕著でなかったのか、純粋なLognormalアセットのバスケットオプションの近似解析解の導出が流行っていました。個人的には、Beisserの条件付き期待値による方法とMoment MatchingのLevyからの調整項を考慮したこのペーパーがベストだと考えています。

一見すると計算が面倒のような気がしますが、プログラミングをしてみると4重のForループだけで済み、手軽に計算ができます。しかし、このペーパーに短所は2つあります。

1つに、このペーパーはすでにジャーナルに掲載されていて、インターネットから入手できないということです。私も大学の図書館に出向きジャーナルをコピーするというクラシックな方法で対応しました(たまには気分転換でよい)。

もう1つの致命的な短所は計算結果にタイポーがあることです。数式の展開を確かめないで、論文の結果だけでプログラミングすると答えを間違えます。このタイポーは皆さんで見つけてください。

弊社では、電力会社向けに、電力取引のキャップ付き燃料費調整でこのモデルからの理論値からヘッジ比率を計算しています。

Modelling of CMS-Linked Products in an RFR framework, with extension to Hybrids, Forward Starting and Canary Options, June 2022

内容紹介

1つの満期で複数のテナーの異なるスワップレートにペイオフが依存するヨーロピアンタイプのオプションのプライシング手法について書かれている。この対象プロダクトは、CMS forwards, CMS Options, CMS Spread-Options, Mid-Curve Swaptions, Cash-settled Swaptions, Amortizing Swapstions等である。これらのプロダクトは、Full-blownなタームストラクチャーモデルを使わずに、スワップレートのVolスマイルを尊重したモデル(SABR, ZABR等のバニラモデル)でプライシングされる。

Swap Annuityを近似したり、商品ごとにアドホックにスワップレートの次元を小さくするのが業界標準ではあるが、Cedervall and Piterbargが、2012年に"Full implications for CMS convexity"でスワップレートの次元をおとさないpay-delay CMSのプライシングを提唱した。ここでは、メインファクターのスワップレート以外のVolはATMのVolが使われていたが、このペーパーではすべてのスワップレートのマージナル分布に合わせ、スワップレート間の相関構造もより一般的な(フォワード測度Tの)コピュラで与えられる。手法も、統一的に1期間の満期Tフォワード測度でのスワップレートのモンテカルロ(実際には、素晴らしいアイデアのQuadrature)を使ったよりジェネリックなプライシングを提唱している。

ポイントは、Annuity測度からT-フォワード測度の測度変換の間にAnnuity Due測度を差しはさむことだ。この測度のニュメレールは、Annuityのキャッシュフローを1期間前にずらしたもので、これを使うと、例えば、満期TにCMSを受け取り、そのスワップ満期にPay-delayの同じCMSを払うという商品のプライシングが簡単にできてしまう。

このペーパーでは言及されていないが、スワップレートだけでイールドカーブが再現できるというもともとのアイデアは1990年代後半に書かれたJamishidianのSwap Rate Market Modelに遡ることができると思われる。

Analytic Framework for Counterparty Credit Exposure, Aug 2022

内容紹介

FRTBやCVAの標準的アプローチでは、銀行内部で計算されたリスクファクターに対する感応度を用いるのに対して、2014年に策定されたSA-CCRには内部で計算された感応度を使うという新しい概念がなく、規制で決められた調整元本とデルタ調整が使われる。このため、バミューダンコーラブルではノンコールのようなEADとなってしまう。また、1つのトレードには1つのリスクファクターしか割り当てられず、ベーシストレードは過大なEADとなる。

SA-CCRでは、短い満期のトレードで完全に長期のトレードのEADを打ち消してしまうので、"SA-CCRの最適化"と称したオペレーションによって、短期の為替フォワードを使って為替レートファクターのEADを実態より小さくすることができてしまう。

SA-CCRは、変動証拠金(VM)のThresholdやダイナミックな当初証拠金(IM)を反映できない。

このペーパーは、これらの欠点を取り除いた新しいSA-CCRを提唱する。バーゼルがSA-CCRを改定しているという噂もあり、改定するとなるとこのペーパーのように改定されると思われる。

Volatility Smiles and Yield Frowns, Nov 2017

内容紹介

Peter Carrが他界されました。ご冥福をお祈りします。

Volatility Smileの形状(下に凸)とイールドカーブの形状(上に凸)はそれぞれ、ボラティリティーが確率的、金利が確率的だからということで一応理解はできるが、このペーパーでは2つの類似性を使いこれらを改めて厳密に説明していく過程で様々な有益な結果を引き出している。特に、無裁定(とimplied volのダイナミクスの仮定)からBachelierのImplied variance(volの2乗)がK-F(ストライク・マイナス・フォワード)というMoneynessの2次関数で書けることを導いた。これは、スワップションのBachelier Implied VolのMoneynessがインダストリーで使われるK-Fであることに1つの正当性を与えている。

ここでのVolatility Smileの形状とイールドカーブの形状の説明の類似性をベースに、Liuren Wuとの共著でありよりトレーディング的なアプローチである、Decomposing long bond returns: A decentralized modeling approachやOption Profit Loss Attribution and Pricing: A New Frameworkという名著につながっていくと思われる。

Decomposing long bond returns: A decentralized modeling approach, July 2019

内容紹介

Swap Butterflyのトレーディング戦略を学術的にそれでいて超実務的なStatistic Arbitrage風にデータから解説している貴重なペーパー 。数式は多くないが、文章やTableの一字一句をかみしめながら、読むことを薦める。

デリバティブクオンツはリスク中立(Q)の世界に住んでおり、デリバティブトレーダーはStatistical measure(P)の世界に住んでいる。クオンツはVolatilityだけの分析に終わる傾向があり、トレーダーは(Pでの)期待超過リターンの分析も必要となる。

私も常に思うことだが、デリバティブ理論をNo Arbitrageを前提としたプライシングモデルの開発やリスク管理モデル開発だけに使うのはあまりにもったいない。このペーパのようにデータ分析も取り入れて期待超過リターンの分析(Alphaの探索)にも力を注ぎ、Statistical arbitrage戦略を考案するのにも時間を使いたい。

Black Basket analytics for mid-curves and spread-options, Nov 2020

内容紹介

Mid curveのプライシングモデルのお話 。Mid curveとは、1y 5y 5yというようにスワップション満期、満期時点からのフォワードスタートスワップのスタート日までの年数、スワップのテナーを3つ並べてクオートされるスワップションである。満期時点でのフォワードスワップに対するオプションであるが、プライシングではオプション満期からフォワードスワップのエンド日までのフォワードスワップレートとオプション満期からフォワードスワップのスタート日までのフォワードスワップレートの重み付けしたスプレッドオプションとしてプライシングされる。

スワップレートのスプレッドオプションに似ているが、スプレッドオプションのプライシング測度はオプション満期のフォワード測度であるのに対して、Mid-curveのプライシング測度は満期時点でのフォワードスワップのAnnuity測度である。

このペーパーでは、マージナルなスワップレートのVolスマイル、CMSやスプレッドオプションと整合的にMid-curveオプションをプライシング、リスクヘッジできるモデルとして、個々の調整スワップレートがフォワードAnnuity測度のもとで対数正規の和でかけるモデル(Black Basket)を提唱している。個々のスワップレートのダイナミクスも個々のAnnuity測度のもとBlack Basketでかけ、スワップレートのボラティリティ・スマイルが容易に構築される。1つの満期のスワップレートが2つのBlack Basketで表せるなら、2つのVols, 2つのウエイト、2つのブラウニアンの相関の5つのパラメータでマージナルなスワップレートのボラティリティ・スマイルが表現される。

複数のストライクを持つスプレッドオプションとATMのMid curveから、2つのレート間の相関は、1つのレートの2つのブラウニアンともう1つのレートの2つのブラウニアンの相関構造から決定される。

Black Basketモデルを使う利点としては、1) マージナルなスワップレートのVol smileも柔軟に表現可能、2) Black Basketは測度変換(スワップションでのそれぞれのAnnity測度、スプレッドオプションやCMSでの満期のフォワード測度、Mid curveでのフォワードAnnuity測度)でも同じ形状を維持する、3)2つのレートのクロス相関を表すパラメータの自由度が大きく、CMSスプレッドオプションの複数のストライクに合わすことができる。4) CMSスプレッドオプションやMid curveの解析解が存在する。

インダストリーでの主流なCMSプロダクトのプライシングは、SABRやZABRというバニラモデルが所与で、CMSやCMSオプションのようなシングルレートのオプションにはReplicationを使い、CMSスプレッドオプションやMid curveには、マージナルのVolスマイルにあわせてコピュラを使うのが一般的だが、最近の傾向としては、脱Replication(exterpolationに依存し不安定)、脱コピュラ(コピュラのパラメータが少なく複数のストライクが観察されるCMSスプレッドオプションにあわない、また、リスク計算が不安定)に向かっている。ここでのBlack Basketモデルは脱コピュラの好例である。

Arc-sine Law and the LIBOR Reform, Aug 2020

内容紹介

デリバティブのクオンツやトレーダーなら、LIBORフォールバックトリガー日に決まるスプレッドをモデル化して、次のようなことをしたいと考えたことがあるだろう。1) スワップのフォールバック有効日以降にフィクシングされるLIBORをOISカーブと今日からトリガー日までのLIBORとCompounded RFRとの日々のスプレッド実現値に依存する複雑なデリバティブとしてプライシングする。2) いまのマーケットのImplied fallback spread(例えば、3年先10年のLIBOR-OISスプレッド)と比較したRelative valueで勝算の高いトレードはできないか、 3)2022年以降の満期を持つLIBORスワップションから、RFRスワップションをある程度複製できないか(つまり、顧客に対してRFRスワップションを売り、LIBORスワップションでヘッジする)?

そのようなことを考えるのが好きな人に、このペーパーを推奨したい。LIBORフォールバックトリガー日に決まるスプレッドはその日から過去の5年のスプレッドの実現値の中央値できまる。しかも、半分以上のスプレッドのサンプルはすでに決まっている。Piterbargは、スプレッドをすでに実現した部分とこれから決まるスプレッドに分けて、将来に決まるスプレッドをガウシアンとしてモデル化して、5年の中央値の期待値を計算する。この将来の5年の中央値は、今後のスプレッドがどう決まろうと下限と上限が存在し、GBP 3m LIBORとCompounded 3m SONIAの場合、それぞれ8.4bpと14.2bpで、マーケットでインプライされるスプレッドの11bpをかなりタイトに挟んでいる。

また、将来のスプレッドをマーケットでトレードされているレベルに固定して、5年の中央値を計算した"Forward spread"と中央値の期待値は乖離してスプレッドのVolに依存する。つまり、中央値はコンベクシティーがあるということだ。

将来のスプレッドは決まる日がことなるから、それそれのスプレッドには相関がある。しかし、Piterbargは解析的に問題をときたいので、One factorモデルを仮定する。このOne factorモデルのパラメータを先ほどのガウシアンモデルの相関構造にカリブレーションする際に、ガウシアンモデルでVolを無限にとばすと、ブラウン運動が時点Tまでに正値だけをとるOccupation timeに帰着する。このOccupation timeの分布関数は、有名なLevy's Arc-Sine Lawに従っていることを使い、One factorモデルをカリブレーションして、中央値の期待値を1次の積分だけで解くことができる。

しかし、Piterbargは、Fallback effective dateとFallback trigger dateを同一視してしまっている。前述のGBP 3m LIBORとCompounded 3m SONIAのスプレッドの例では、LIBORが最後にクオートされる日を2021/12/31として、中央値計算期間を2016/9/28-2021/9/28としている。もし仮に、Fallback trigger dateが2020/12/3であれば、中央値計算期間は2015/9/1-2020/9/1となるだろう(2020/9/1のcompounded 3m SONIAが完全にわかるのは、2020/12/1)。その後のモデル化は君にかかっている。

Diffferential Machine Learning, 2020

内容紹介

複雑なプライシングモデルによる解析解が存在しないデリバティブの現在価値を計算する際に、伝統的には紙と鉛筆を使って近似解析解を導出していた。これを最近ではMachine Learning(deep learning, neural network)で行う。例えば、モデルを3期間のモンテカルロで表し、今日を時点ゼロ、時点1でモデルの状態変数をシュミレーションして、時点2でデリバティブのペイオフをシュミレーションする。すると、サンプル数だけの時点1での(複数の)状態変数と割引ペイオフの組ができる(これが、このペーパーでいうところのLSMデータセットである)。通常だとここは、LSMリグレッションで時点1でのデリバティブ価値の状態変数に対する関数を近似する。コーラブルなトレードのプライシングやXVAの計算では、ここで導出したPV関数をメインシュミレーションで再利用して継続価値を求める。

時点1でのPV関数を計算する際に、リグレッションではなく非線形な関係も表すようNeural Networkを使う。このペーパーでは、インプットがモデル状態変数でアウトプットがPVであるFeedforward(順伝播)なNeural Networkだけではなく、PVから同じNetworkのBackpropagation(逆伝播)でPVのインプットである状態変数に対する1回微分(Gradient)もアウトプットにする。(複数の)状態変数に対する1回微分は先ほどのシュミレーションでPathwiseに計算できるので、今度のデータセットは、モンテカルロサンプル数だけの時点1での(複数の)状態変数、割引ペイオフ及び割引ペイオフの状態変数に対する1回微分の組みとなる。このツインネットワークのウエイトを最適化したPV関数はデルタにもマッチして作られたものなので、関数の形状はかなり正確となり、その分伝統的なネットワークより学習サンプル数は少なくて済み、正確かつ高速となる。

コーラブル・トレードのモンテカルロでの計算は、コール判断だけが重要なのでグローバルなPV関数の正確な形状は必要ない。一方、XVAでのExposure計算では正確なPV関数が必要なので、デルタも考慮したツインネットワークでの計算は重要であると思われる。

Funding Value Adjustment, 2019, Journal of Finance Vol 74

内容紹介

FVAはデリバティブの価値の一部をなしているかという論争が2012年ごろからあったが、最終的にどのように解決されたのかは個人個人によるのだろう。弊社ではこのペーパーをFVAやMVAの理論的存在のよりどころにしている。少なくとも、BloombergのKjaerもそうだろう。

ここでは、FVAとはデリバティブポジションを調達するための純コストであると思いがちであるが、実はコーポレートファイナンスでいうところの株主にとってのDebt-overhangコストであるといっている。だからトレーダーがデリバティブを行う時はそのトレードのCVAとDVAだけを考慮したマーケット価値が正であっても、株主に対してのDebt-overhangコストを払うために取引相手である顧客からさらにその分を"ドネーション"してもらう必要がある(実際には、株主にとってDVAは関係ないからDVAとFVAの合計がDebt-overhangコスト)。コーポレートファイナンスでいうDebt overhangとは、企業がNPV>0である投資をしたとしても、既存の借り入れが大きすぎるため投資のペイオフの大部分が債務者にいってしまい株主が損をしてしまうことがあるという現象のことである。

このペーパーを読んだ後に、下で紹介したKjaerのKVA from the beginningを読むとさらに実務的な理解度が増す。Kjaerはこのペーパーでいうところのマーケット価値(V-CVA+DVA)を企業価値といい、マーケット価値からDVAを引いてさらにFVAやMVAを引いたもの(V-CVA-FVA-MVA)を株主価値といっている。こう考える方が実務的にはわかりやすい。ちなみに、KjaerのKVA from the beginningはこのペーパーの分析手法をKVAについて応用したものである。

Managing Vol Surfaces

内容紹介

ペーパーのタイトルが2002年のオリジナルSABRのペーパー Managing smile riskと似ていることからもわかる通り、このペーパーで扱っているのは、SABRのパラメータであるα、ρ 及びvolvolを時間の確定的な関数とするDynamic SABRについである。しかし、裏にある分析手法は、オリジナルのSABRをさらに進めたものであり、原資産だけの確率推移密度関数の満たすEffective 1-d forward equationの近似式に帰着させることで、すべてのStochastic volモデルのヨーロピアンオプションのVolスマイルはパラメータがコンスタントなオリジナルのSABRモデルで表現が可能というものである。

PitarbergのParameter AveragingはHestonモデルについてだけ述べたものであるが、このペーパーの手法を用いると、すべてのStochastic VolモデルはSABRモデルの一定なパラメータを通じて時間変動のパラメータをカリブレーションできるようになるということだ。これは素晴らしい!!

オリジナルの(パラメータがコンスタントな)SABRでのトリックは、原資産だけの確率推移密度関数の満たす1-d Backward Kolmogorov equationの導出であったが、ここでは確率推移密度関数の満たす1-d forward equationの導出がポイントとなる。しかしこれは方程式の係数に現在のフォワードレートがあらわれることから真のForward equationではなく、それゆえ双対なBackward equationやGyonjy theoremの意味でのLocal volモデルは存在しない。

ここでの結果は、複利後決めリスクフリーレートのCapletのVolをSABRで表す際にも使われているようだ。

KVA from the beginning

内容紹介

KVAの本質を理解するのに最もよいペーパーであると思う。このペーパーでは、バランスシートを通してデット・ファンディングだけでなく規制資本とエクイティー・ファンディングの効果を取り入れたデリバティブ評価を1期間モデルで説明する。もちろん、プロダクションでのモデルは連続時間のモデルで行う必要があるが、これはコンパニオンのペーパーである"KVA Unmasked"にかかれている。ただし、こちらは2020年1月21日時点でまだ最新のものにアップデートされていないようで、このペーパーとの議論が噛み合っていない部分がある。いづれにせよ連続時間モデルのペーパーはここでの1期間モデルを理解すると簡単に読める。

このペーパーで特記すべき内容は以下の2つである。1)企業価値と株主価値としてデリバティブを評価する。伝統的な企業価値としてのデリバティブ評価ではBilateralなCVA(=CVA+DVA)しか導出されない。これは会計価値とリンクするが、会計価値は出口価格でありマーケット参加者がFVAを考慮していたら出口価格にFVAも含まれるというのが今の会計上の解釈だろう。株主の立場からのデリバティブ評価ではじめてFVA、MVAやKVAが認識される。株主は企業が生存している場合のみのキャッシュフローしか考慮しないので、DVAは登場しないでUnilateralなCVAだけである。一般的に云われるFVA(のFBAコンポーネント)とDVAの二重計上は回避されている。ただし、リスクフリー参照価格は株主にとってのものであり、XVAのディスカウントでは自分のファンディングカーブを使う。日本の金融機関は会計価値を重視するが、XVAはまさに管理会計でありXVAを考慮することで株主価値を毀損しなくなり、株主価値を最大化するヘッジ戦略をとるインセンティブがでてくる。会計とのPL認識時期はずれていても会計上のPLはあとからついてくるものである。

2) KVAはKVAそのもののファインディング戦略に依存する。顧客からチャージしたKVAをすぐに株主に返還する場合、チャージしたKVAでデット調達を減らす場合、チャージしたKVAでエクイティ調達を減らす場合でKVAの評価額が異なる。もちろん、チャージしたKVAでエクイティ調達を減らす戦略をとるとKVAが最も小さくなる。

バーゼルIIIでは、デフォルトやCVAに対する規制資本が大きくなる。KVAを考慮しないデリバティブ・プライシングは株主価値を毀損するだけでなく、最適なデリバティブ・ビジネスの運営がでできなくなるであろう。これは会計とは無関係である。

Local-Stochastic Volatility for Vanilla Modeling: A Tractable and Arbitrage Free Approach to Option

内容紹介

SwaptionやCap/FloorのVanilla Modelとしては、Shifted SABRが広く使われているとされているが、実際にはshiftを含めたSABRのLocal volatilityの部分が銀行独自のものとなっている場合が多い。

このペーパーでも述べられているように、通常のSABRでは、1) リスクでのストレステストに対応できない、2)高いストライク部分のVolをコントロールできずCMSのフォワードに合わせられない、3) 低いストライクで、バタフライの価値が負になるエリアが発生する という現象が起こる。

ここでは、LV部分を 1)SABRのLVであるmax(F+shift,0)^betaをスムージングしており、2) betaもフォワードの関数にしている(金利が高くなればよりLognormal)。

このペーパーのメインの主張は、SABR型(対数正規)のSVだけで、どんなLVにも対応できる、正規分布の分布関数だけバニラオプションの(精度のよい近似の)解析解が計算できるというものだ。この近似解はHagan近似よりかなりよくarbitrage-freeであり、NormalにするとNumerixのAntonov(いまは確かDanske)らが提唱しているNormal SABRの厳密な解析解(計算はExpensive)とほほ同じとなる。

なんといってもこのモデル(枠組み)の最もよい点は、HaganらのペーパーやAntonovらのペーパよりはるかに簡単に理解できることである。

Consistent XVA Metrics Part II: Multi-currency

内容紹介

XVAのペーパーや書物は、1)XVAの考え方やバックグラウンド、2) XVAのフレームワーク、3) XVAのLSMを使った実際のインプリ の3種類に大別できるであろう。1)のバックグラウンドについては、Gregoryの「The xVA Challenge」が定番でわかりやすいであろう。

XVAのフレームワークに関しては、Burgard & Kjaerの1連のペーパーを奨めたい。デリバティブの初等テキストにあるSelf-financingなポートフォリオを構成することから始めて、無裁定条件からXVAのみたす偏微分方程式を求め、XVAをFeynman-Kac の解で表現する。

ここで紹介するペーパーは、KjaerがBloombergに移り、Bloombergに実装されるより具体的なXVAのフレームワークを示している。どう具体的かというと、1)XVAを株主価値と企業価値と区別して求めることで、XVAのディスカウントをきちんと示している。2) 当初証拠金も考慮した議論をすることで、MVAの導出もしている。3) マルチカレンシーの枠組みで論じているため、クロスカレンシー・ベーシスも陽に表現されている。

KjaerはKVAに関しては、Semi-replicationの枠組みで論じることには懐疑的のようで、ここではKVAの記述はない。

Parameter Averaging of Quadratic SDEs with Stochastic Volatility

内容紹介

Local volをパラメトリックなUnderlyingの2次にして、Heston タイプのStochastc volと融合させたLSV(Local stochastic vol)モデルである。こうすることで、純粋なStochastic volより、smileのダイナミクスをよりよくコントロールできる。

具体的には、Local volの2次項により、Underlyingが動いたときにRisk Reversal がどう動くかといったことまでコントロールできるようになる。要するに、静的なボラティリティ・スマイルのカリブレーションと動的なボラティリティ・スマイルのダイナミクス制御の両方が手に入るわけだ。

このペーパーは銀行でのクオンツ間のインターナルなペーパーの如く、実務上のトリックとその詳細が書いてある。よって、このペーパだけでプログラマーはモデルを構築できてしまう(Calibration部分のみ)。

さらに特記すべきことは、Piterbargの"Parameter Averaging"をより広範囲により厳密に論じており、例えば、Piterbargはゼロとおいていた、UnderlyingとInstantanious varianceの相関についてのParameter averagingの記述もある。

とにかく、Andersenのペーパはいつも実務的で、読んでいて楽しい。

The Kelly Criterion in Blackjack, Sports Betting, and the Stock Market

内容紹介

ギャンブラー(トレーダー)が1/2より大きい確率で勝つ賭け(トレーディング戦略)を見つけたとする。そのとき、自分の資本に対して賭ける(投資する)最適な割合を考える。"Kelly criterion"とは、将来の富の対数を最大化するような割合である。

"Kelly criterion"をコイン投げを使って簡単に解説して、投資やポートフォリオ構築に対しての応用を、著者の経験談を交えて解説したのがこの論文である。BlackjackやSports bettingは題名にあるが、その解説はほとんどない。

Kelly criterion, Kelly portfolio, Growth Optimal Portfolioについて最初に読む論文としては、これを奨める。息をつく暇もなく面白く読めるのだが、計算は自分で確認することを奨めたい。

Kelly criterionで最適化されたポートフォリオをKelly portfolioというが、これはPlaten等の"Benchmark approach"での"Real World Pricing"で実測度でのNumeraireの役割をはたすという事実も興味深い。

SellサイドクオンツからBuyサイドクオンツへの転向を考えている人にもお奨めします。(実際に、ロンドンの友人がこれを読んでBuyサイドクオンツに転向してしまった!!)

Derivatives, Diffusions, and Duality

内容紹介

原資産価格とそのオプションのデルタ・ポジションは双対をなし、それゆえ、オプション価格とキャッシュ借入額は双対をなす。また、時間をオプション満期から反対にとった場合のキャッシュ借入額のみたすBackward PDEは、ヨーロピアン・デリバティブのみたすBackward PDEの双対問題となると主張する。

原問題より双対問題を解くほうが、問題の本質がわかったり問題が効率的にとける場合がある。デリバティブのプライシングや値洗いの際、キャッシュ借入額の問題を解くほうがよい場合があるだろう。筆者は、その例として、デルタに依存するデリバティブのプライシング(例えば、アメリカン・プット・オプションはデルタが-1になれば権利行使すると考えられる。またMVAを計算する際のDynamic SIMM)や1日前のデリバティブの価値から今日のデリバティブの価値をアップデートする場合(満期から新たにBackwardでプライシングする原問題よりはるかに効率的である)等の例をあげている。

最近の、Backward SDEやBackward Ito Integral等の手法を使うので、これらの概念の復習にもなる。

The FVA Puzzle

内容紹介

2012末からの欧米銀行のFVA計上による60億ドルの会計上の損失は実は20億ドルでよかったという記事が2015年の4月に業界専門誌であるRiskに掲載された。FVA論争の第2弾ともいえるFVA計算方法に関する議論は、このペーパーに端を発している。このペーパーで提唱されているFVA/FDAを使うと、現在のFVA計算の主流であるFCA/FBAで計算するよりFVAは40億ドル減るという。

著者の1人であるAlbaneseといえば、Level 3 Financeという誰も理解できない程の難解でスマートなデリバティブの計算手法を提唱しており、弊社でも注目をしている人である。今回のFVAペーパーでも力わざのシュミレーションはあるものの、FVA/FDAの主張の妥当性は抜きにしても、FVAの会計、債券保有者から株主への富の移転、FTP(funds transfer pricing)、規制資本についてよく整理されている。また、リバース・ストレステストやファンディング・アービトラッジまでもかいてあり、FVAに興味のある会計士、クオンツ、リスクマネジャー、トレーダ―、レギュレータの誰が読んでも楽しめる。このペーパーは一読に値する。

Quant History

内容紹介

デリバティブの"クオンツの歴史"を見事にとらえているプレゼンテーションの資料である。現在は、エキゾチックデリバティブの分野だけでなく、金融機関のすべての分野でクオンツが必要となったとの主張は尤もである。

また、クオンツへのアドバイスも随所にみられる。「簡単にわかる(誰でもわかる)....」というような安易な本に頼ることなく、オリジナルのペーパーを読もう。唯一のいい本は、"Numerical Recipes in C"である、等である。

Making and evaluating point forecasts

内容紹介

BaselⅢの新しいマーケットリスクの規制資本計算では、テールリスクをよりよくとらえるとしてExpected Shortfall (ES)が従来のVaRにとってかわられる見込みだ。VaRはリスク尺度としての望ましい性質であるSubadditivityを満たさないことは、多くの実務家にも知られている。ところが、最近になって、ESはVaRに比べてバックテスティングや推定方法が難しいことが話題になっている。これは、数学的にはESはElicitabilityを満たさないということに関連している。

今回紹介するペーパーは、Expected Shortfallは、VaRにはあるElicitabilityを満たさないことを最初に主張したものである。この辺の議論が、Fundamental Reviewにどう影響していくのか注視する必要がある。

Arbitrage-Free SABR

内容紹介

HaganらのオリジナルのSABRペーパー(2002年にWilmotte magazineで発表)から12年、いわゆるHagan近似では低金利下のもとでスワップション満期におけるさらに低いレートゾーンの確率密度が負になってしまうというという欠点を修正した、同じ著者らのArbitrage-free SABRのペーパーがこれまたWilmott magazineで発表された。

外資系金融機関ではすでにこの問題は修正済みのところが多いが、邦銀等はこれからSABRをインプリするところが多くあり、最初からこちらをインプリするか悩ましいところだろう。著者の経歴をみると、P.HaganやA.Lesniewskiも現役を退き(?)、大学で教えていることがわかり、時の流れを感じてしまう。
OTCクオンツスクールでSABRモデルを学んだ方々は、このペーパーはすらすら読めるはずだ。

Linearity-Generating Process, Unspanned Stochastic Volatility, and Interest-Rate Option Pricing

内容紹介

低次元のマルコフ性をもった金利の期間構造モデルでは将来のゼロクーポン債の価格(Reconstitution formula)は状態変数のexponential affineまたはquadraticとなる。例えば、Cheyette modelでは金利ファクターが1つでもゼロクーポン債価格を表す状態変数は2つとなり、一般的にイールドカーブを表すファクター数がmつ、ボラティリティーを表すファクターがnつのときは、すべての状態変数の数は m+m(1+m)/2+nとなる。

一方、ここでのLinear-generating processsを使うと、ゼロクーポン債は金利ファクターの数だけの状態変数のLinearとなり、金利のマーチンゲール部分のモデリングにはまったくよらなくなり、それゆえ、完全な"Unspanned Stochastic Volatility"モデルとなる。状態変数も、m+nつとなりモデルのインプリはかなり簡単となる。ボラティリティのマルチファクターのモデリングも参考になる。stochastic volのない金利モデルでは、金利のmean reversionだけで、スワップションのvolatilityのオプション満期方向とスワップテナー方向のvolの減少を説明するが、stochastic volにすることで、vol のmean reversionはオプション満期方向のvolの減少、金利のmean reversionはスワップ テナー方向のvolの減少を説明できるという記述は興味深い。また、金利とスワップションVolの時系列から、モデルのspecification analysisをおこなっている。このような分析はトレーディングで使えそうだ。
機会があれば、OTCクオンツスクールで"Unspanned Stochastic Volatility model"に関するセミナーも開催する予定だ。

Multifactor Portfolio Efficiency and Multifactor Asset Pricing

内容紹介

著者のEugene F. Famaは2013年のノーベル経済学賞を受賞した1人だ。授賞理由は金融資産の価格形成理論に貢献したことである。彼の研究の1つであるマルチファクターのアセット・プライシング理論に基づく実証分析が大きく貢献したことは明らかである。このペーパーはこのマルチファクター・アセットプライシング理論を記述した理論ペーパー。

もちろん、デリバティブ理論とは異なり、Expected returnがマルチファクターのリスクを織り込んでどう決まるかということが主題であり、ファイナンスのもう1つの理論もクオンツは十分に理解する必要がある。

リンクしたペーパーはすでにパブリッシュされていて、無料ではダウンロードできない。
機会があれば、OTCクオンツスクールで彼の理論に関するセミナーも開催する予定だ。

Counterparty Risk Valuation, A Marked Branching Diffusion Approach

内容紹介

著者のPierre Henry-LabordereがRisk Magazineの2013年"Quant of the year"に選ばれた際の論文。カウンターパーティーリスク (CVA) を考慮したデリバティブの価格がみたすSemi-linear PDEをFeynman-Kac formulaで確率的な解釈に直すと登場するMarked Branching DiffusionにMonte Carloを使って、CVAを求めるという内容。
この方法をとると、"Monte CarloのMonte CarloやLeast-squareのRegressionを回避でき、マルチ・アセットのCVAを効率的に求めることができると主張する。

最近、数理ファイナンスで話題となっているBSDE (Backward stochastic differential equation)やParticle methodについても学習できる非常に興味深い論文。

Pierre Henry-Labordereにしては読みやすい内容だが、式展開は端折っているところもあり、自分で計算する必要があるという意味でも読みごたえはある。
リンクしたバージョンはRisk Magazineに2012年に掲載されたもののフルバージョンでApppendixもある。

Recovery Theorem

内容紹介

金利のCIRモデルでも有名なMITのStephen A. Rossが2011年に “The Recovery Theorem” という金融アカデミック界、デリバティブ実務界を驚かせるワーキングペーパーを発表しました。
オプションプライスから原資産のローカル・ボラティリティー曲面が求まることは周知の事実ですが、このペーパーはオプションマーケットが予想する実世界(リスク中立ではなく)における原資産の将来分布を求めることができるということを主張するものです。

デリバティブ業界では、実世界の期待収益率は使わずにボラティリティーだけからデリバティブのプライシング、リスク管理ができますが、Recovery theoremのインプリケーションはリスク管理の様々なところで、実務に使えるポテンシャルを有しています。

例えば、VaR(バリュー・アット・リスク)、クレジットリスクのPFE(ポテンシャル・フーチャー・エクスポージャー)やストレス・テストは実世界のもとでの概念なので、オプションプライスからフォワード・ルッキングな実世界での原資産分布がわかれば、時系列データに頼ることなく、これらをより正確に実装することができます。
実際、時系列データでは企業の倒産や金融危機時の資産価格といったテール部分の分布の推定が困難です。

近々、Journal of Financeでパブリッシュされる予定。

Recovery Theorem講義資料(第1回)

内容紹介

シグマインベストメントスクールでRossのRecovery Theoremを教えています。
生徒数もおもったより多く集まってくれました。

セミナーは3回もので、初回の講義ノートがダウンロードできるようにしました。アカデミックな理論とデリバティブの理論の違いについてもふれてます。参考にしてください。

Adding FVA to the Unilateral CVA

内容紹介

双務的CVAを用いて無担保デリバティブを評価するという枠組みは終焉にきている。自分が倒産した場合の利得の現在価値であるDVAはレプリケーションできず、これをプラスの経済価値として、銀行がリスク管理することに無理があるからである。ここでは、片務的CVAにFVAを考慮した枠組みを考える。
2012年度冬期JAFEE大会で発表した論文。

現在はこちらからダウンロードはできません。JAFEEではページ数の制限があったので、いまフルバージョンの改訂版を準備中。